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「青……くん?」
 少し驚いた様子で未里が見つめる。その眼差しを感じながら、青はどこからか心に湧き上がるものを感じていた。
 手に入らないなら、手に入るように仕向ければいい。忘れることなんてできないくらい、心にも体にも刻み付ければいい。呆れるくらい心の中で好きと叫んでも、泣きたいくらい好きと思って心を痛めても、彼女には気持ちの一グラムだって伝わらないのだから。
 先輩も後輩も関係ない。例え先輩の彼女であっても、未里が女で、自分が男という関係は変わらない。
「……先輩、無防備過ぎ」
「え?」
「ねえ、そんなに顔近づけたら、キスするよ」
 未里が息を飲むのが分かった。何を言われたのかよく理解できない顔をして固まっている。半分冗談目的で言ったはずの言葉は、口に出した途端、冗談では終わらないほど青の気持ちを駆り立ててしまった。

 青がそのままキスをしようと顔を近づけると、我に返った未里がすかさず顔を後ろへ引いた。血色の良い潤った朱色の唇がうっすらと開かれて、戸惑う心がよく表れている。
「ちょっ……青くん、どうしちゃったの。こんな、冗談……」
 未里が頬を染めて、青の視線を避けるように目を逸らす。その姿を見て、自分の心が悪戯に染まっていくのを感じた。自分より上の立場で、先輩の彼女という手の届かなかった未里を少しずつ支配していくという高揚感。
 もう……後には引き下がれない。
「ふ〜ん……先輩は冗談でキスできるんだ?」
「ち、違う。私には武志が、ちゃんと好きな人がいるから……こんな、の……困る」
「それってさ、困るだけで嫌じゃないってことだよね」
「そんなっ……」
「ねえ、先輩。俺のこと好きになってよ」
「そんなの、むっ……」
 青は強引に唇を重ねた。未里の返事など、初めから聞く気などない。“NO”なのは分かりきっている。重要なのは、その先だ。自分の気持ちを彼女が知った、その先の答えを聞かせて欲しい。だから今は保留にする。

 未里は反射的に引き離そうと体を引くが、そうはさせまいと青は掴んだ腕に力を込めた。未里が小さく声を上げる。
「ん……や、青……くん……」
 青はその柔らかさを知った途端、重ねるだけのキスにもどかしさを感じた。今度は逃げられないように手を未里の頭の後ろにそっと回して、唇を割るように舌先に力を入れる。拒否をしてかたくなに閉じる唇を何度も優しくなぞると、少しずつ力が弱っていく。息継ぎを忘れた未里が唇の力を緩める隙を狙って、青はさらに深く口付けた。
 未里のくぐもった声が青の心をはやらせる。なぞって、絡ませて、唇を果実のようについばむと、未里の声に艶が交じってくるのが分かった。吐息に、青の心を煽るような甘さが含まれる。
 ゆっくりと唇を離すと、未里がとろんとした目で青を見つめていた。どこか物欲しげな顔が色っぽい。青の知らなかった未里の姿。清純な彼女を自分で侵食していく気持ちに、青は口の端を微かに上げた。彼女は優しい。だから絶対に拒めない。全ては計算づくで、俺のものにして奪ってやる。

 青はそっと耳元に唇を寄せると、触れるか触れないかの距離で囁くように言った。
「先輩がいいなら、この先も……してあげるけど」
 未里はすぐに返事をしなかった。未だ夢見心地でいるらしい。青がそっと頬に手を触れると、我に返った未里は慌てて椅子から立ち上がって離れた。泣きそうな顔をして青を見下ろす。
 そんな未里とは反対に、青は悪戯に笑うと、未里の目を真っ直ぐに見つめた。真っ直ぐな想い、そのままに。
 キスをした瞬間、未里を奪うという夢は現実に変わった。好きだから、どうしたって諦め切れない気持ちだから、俺は計算づくであんたを奪うよ。
「逃げんの? ……けど、あんたは絶対、俺を好きになるよ。千川先輩なんて、すぐに忘れさせてあげるから」
 俺を知るほど、重ねる数だけ、あんたは俺に惹かれるから。
 年下だからって関係ないよ。
 背があんたより低くても、少しも不利なんて思わない。
 年下の可愛い後輩はいいかげん卒業させてもらうから。
 恋なんて盲目。すぐに俺しか見えなくなる……。










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