二重人格。
そんな人間にまともに会ったのは生まれて初めてだったが、まさか本当にそんな人がいるとは思わなかった。
確かに顔が良いのは認める。オーラが出ている事もアイドルだから仕方がない。おまけにセンスさえも抜群に良い。けれども……。
とにかく、社和泉は、見掛け倒しの超危険人物だ。
「ねえ、出てってよ」
依緒は書いていた手を止めるとシャーペンを机に置き、ため息をついて振り返った。
「お構いなくー」
和泉は依緒に目も向けず、しれっとした顔でベッドに寄りかかって座っている。そんな和泉にいくら睨みを利かせても意味はなかった。今日は珍しく
こ、この男は……と、依緒の口元が怒りで震える。もう我慢の限界だった。依緒は勢いよく立ち上がると、和泉からひったくるように本を取り上げた。
「は? ちょっと、何すんの」
「出てって! 私、こう見えて受験生なの」
和泉は一瞬呆然とした表情を浮かべたが、すぐさま平然とした顔に戻って何やら楽しそうに笑みを浮かべた。
「ふーん。その割には全然進んでないようだけど」
和泉がちらりと机の上に目を向ける。依緒のノートには、まだ2〜3問しか答えが書かれていなかった。しかし、そのことに本を読んでいた和泉が知るはずもないのだが……。
「あっ……のね、それは、あなたが邪魔するから」
後にずっと居られたら誰でも気になるものだ。
「俺? 別に静かにしてたはずだけど」
何か見透かしたような和泉の笑いに、依緒は思わず閉口した。和泉は居るだけでその存在自体が
「漫画なら自分の部屋で読んでよ。いくらでも持って行っていいから」
「やだ、つまんないし。依緒のこと、からかえないじゃん」
「なっ」
依緒は開いた口が塞がらなかった。
「それに俺、あなた、じゃなくてちゃんと名前あるんだけど」
和泉が依緒を見上げた。上目遣いで見上げるその姿は、雑誌の中の1ページのように崩れがない。心の奥まで見透かすような視線に、依緒は喉が詰まったように何も言えなかった。
芸能人は目力が命、とはよく言ったものだ。特に和泉の場合、見つめる瞳だけで女の子を黙らせてしまう術を心得ているように思える。乞う様な甘い上目遣い、挑発的な薄笑い。それを分かっていながらやってのける和泉はやはり卑怯だ、と依緒は思った。
思わず顔を逸らすと、和泉がゆっくりと立ち上がって依緒の前に立った。今度は依緒が和泉を見上げる番になってしまい、戸惑う。
「な、何よ」
上から見下ろされる気分はあまり良いものじゃない。どこか気持ちが萎縮してしまう。面と向かって近い距離に来られるのはやはり慣れなくて、体を引こうとすると腕を捕まれた。反射的に依緒の体が微かに震える。
「何かしたら、こ、この間みたいにぶつから」
この間キスをされた時、依緒は思わず和泉の頬を平手打ちした。
依緒が身構えているにも関わらず、和泉は動じない様子で頬に手を伸ばしてきた。指先がするすると頬を滑って耳を覆い、そのまま髪の中へ差し込まれていく。くすぐったさと心地よさが入り交じる。
距離が少しずつ近くなっていき、またあの時のように体が動かなった。先ほどの
視界が真っ暗に染まり、心臓の音が全身から流れてくるように大きく伝わってくる。頬の辺りに和泉の温かさを感じながら、依緒は唇に柔らかな感触が訪れることを恐れていた。
それなのに、流れている時間が長くなるほどに、どこか待っている気分になってしまう。
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